第87章 年に一回限りの山蟹採り(2013.5.30)
------------------------------------------------------------------------------

京の台所、錦市場の魚屋さんの店先の樽の中を覗くのが楽しい。樽の中には、決まってドジョウか、沢蟹が入っている。沢蟹は杉の葉が敷かれた樽の底でうごめいている。料亭で出される料理に決まって一匹、添えられている。
また、最近、ペット屋さんでも沢蟹を扱っているし、縁日でも沢蟹釣りがあり、子供も大人も楽しんでいる。持ち帰った蟹は、きっと食卓に上ることはないだろう。仮に食卓にのせるものなら、多分、家族崩壊の危機に陥るかもしれない。

この沢蟹、山小屋でもよく見かける生き物の一つで、沢の渓流に棲む山蟹だ。水のきれいな清流に暮らす生き物の代表選手だが、出遭うのは、渓流ではなく山の中の石の下などが圧倒的に多く、また、水辺からも遠い山の奥でも見かけることがある。その大半は、一匹のみで行動している場合が多いため、食料にしょうとは思わない。日中、山の中で畑の開墾や林業作業などが多いため、山の中で出会うことが多いのだろう。また、夏頃に渓流の中でも見かけることはあるが、その場合、お腹に卵や孵化した小さな稚蟹を抱えたものが多い。この稚蟹たちは、既に蟹の姿となっており、しばらくは母蟹の腹部で過ごすと云う。たぶん、渓流の速い流れにのって流されないように、ある程度、大きく成長するまで守られているのだと思う。
雪が積もる冬は渓流の脇の土の中で越冬となるが、集団で冬眠していることが多く、この時が一網打尽の機会となる。スコップを使い、いそうな場所を探り出し、捕獲する。もちろん、一網打尽の後は酒の肴となり、素揚げにして塩でいただく。

「この辺り雪もないし、小さな穴もあるし」
「よし、この辺にスコップを入れようか」
「的中、大漁だね」
「50匹近くおるよ」
「これだけあれば、十分、今日は打ち止めにしょう」

山蟹の天敵は、ヘビ、イタチ、ネズミなどの小動物だろうが、山や渓流を知り尽くした人間は、この山の生態系を守ることも、いとも簡単に破壊することもできる能力を備えており、ある意味で一番の天敵かもしれない。餌も少ない渓流に棲む山蟹たち、その小さな姿を見かけるといとおしさも感じる。山の恵みに感謝しつつ、年に一回限りの沢蟹採りを楽しむことにしている。

京都山小屋の住人

(次回に続く)